UI/UXデザインに行動経済学のナッジ理論を活用

カバー

[!] この記事は公開されてから1年以上経過しています。情報が古い可能性がありますので、ご注意ください。

はじめに

この記事では、行動経済学の分野で注目されているナッジ理論を取り入れたUI/UXデザインについてご紹介します。
また、行動経済学的観点による、体験の質を高める方法もいくつかまとめました。今後UI/UXデザインを考えてみたいという方や、どのようなサービスであれば顧客満足度が高まるのか考えたいという方のお役に立てれば幸いです。

UI/UXとは

行動経済学やナッジを取り入れたUI/UXについて考える前に、そもそもUI/UXとは何か?という方のために、簡単な定義を整理します。

UIとは

User Interfaceの略です。Interfaceとは、2つの異なるシステムを結びつける役割を持つ、部品やプログラムのことを言います。
例えばシステムとユーザーを繋ぐものとして、ユーザーが操作する画面や、その画面に設置されたボタンなどももちろんですが、キーボードやマウス、タッチ画面も全てUIであると言えます。

UXとは

User Experienceの略です。Experienceとは経験・体験という意味で、簡単に言えばユーザーが製品やサービスから得られる「楽しい」「綺麗」という感情や、「使いやすい」「また使ってみたい」という印象など、体験の全てを指します。

ナッジ理論とは

ナッジ(Nudge)とは直訳すると「ひじで軽く突く」という意味です。
2017年にノーベル経済学賞を受賞したリチャード・セイラー教授によって提唱されました。行動経済学や行動科学において、人々が強制的にではなく、よりよい選択を自発的に取れるようにする方法を生み出すための用語として用いられています。
近年マーケティングや医療・環境保護など、様々な業界で活用されている理論で、気付かない間にも身の回りに浸透しています。

ナッジの利用に伴う注意点

ナッジを有効に活用すれば顧客がより良い選択ができるよう、自然に行動変容を起こすことができます。
逆に、ナッジを悪用することをスラッジ(Sludge)と言います。顧客に商品価値を誤認させるよう働きかけ、無理やり購買促進をした場合にはスラッジになることもあります。
行動経済学におけるナッジの利用目的として、本来の意図である「より良い選択をするよう行動を促す」ということを見失わないようにする必要があります。

事例紹介

ここでは実際に利用されたナッジの事例について4つご紹介します。
海外で活用された事例から、私たちが普段生活している町での活用事例までありますので、共感していただけるのではないでしょうか。

列の整理の負担を軽減

最も身近にある例は、コンビニやスーパーのレジ前にある足形のマークです。
このマークがあると、自然とこの位置に並べばいいと気付きます。自分の位置がマークから外れていると違和感を覚えてしまい、自然と自分の立つ位置をマークにそろえてしまいます。
昨今のコロナ禍の影響で、ソーシャルディスタンスという考え方が浸透しました。並ぶ位置を細かく指示することは、指示する側もされる側も負担があるものです。ナッジはこのような仕組みで、自然と人々の負担を軽減しています。

トイレの清掃費を削減

トイレの清掃費を削減した、ナッジの成功事例の中でも最も有名な成功例の1つです。 男性用小便器に1匹のハエの絵を描くことでトイレの床を汚す人が減り、結果的に清掃費が8割減るという成果が得られました。 人間が持つ「人は的があると狙いを定めたくなる」という分析結果を利用したものです。

タバコのポイ捨てが減少

この事例では、タバコのポイ捨て対策としてタバコの吸い殻で投票できるアンケートボックスを設置しました。アンケートボックスには「どちらが最高のジェダイマスターか?」というスターウォーズに関する質問や、「次の大統領はどっち?」というアメリカ大統領選に関するアンケートなど、様々なパターンがあります。
本来価値のないタバコの吸い殻に対し、投票権という別の価値を与えることでポイ捨てを減らした成功例です。

納税率が向上

こちらは公共政策にナッジが利用された例です。
イギリス政府の中で税金の未納率が問題視されていたころ、税金滞納者に対して「あなたの住む地域のほとんどの人が納税していますよ」という手紙を送るようにしたところ、納税率は68%から83%に上昇が見られました。
人間は社会的な生き物であり、周囲の人や多数派の行動を参考にして意思決定する、という傾向を利用した成功例です。

その他の事例

その他にも「人間の目が入ったデザインのポスターを設置したら車のスピード違反が減った」「子供や赤子の絵を設置したら軽犯罪や迷惑行為が減少した」など、多くの事例があります。

行動経済学における6つの効果

UXを設計するには、ユーザーに何を体験してもらいたいのかを考え、共感し、伝わる仕組みを考える必要があります。 ユーザーにより良い体験をしてもらうため、ここではユーザーの自発的な行動変容を促すことができる6つの仕組みについてご紹介します。

アンカリング効果

アンカリング効果とは、最初に数値や情報を印象付けることで、その後の意思決定に影響を与える効果です。

例えば、1本500円の缶コーヒーを見たらどう思いますか?高いと感じる方もいるのではないでしょうか。
これは私たちの中に、缶コーヒーの価格と言えばだいたい100~150円くらいだろう、という「基準」が存在するからです。
逆にこの「基準」がない状況として、海外旅行に行った時などは物の値段が高いのか安いのか、判断に困る場合も多いでしょう。

ユーザーが相場を詳しく知らない商品などでは、値下げ広告を打つ、購入者数を大きく見せるなどすると、より多くの方に魅力的に映るかもしれません。

ピーク・エンドの法則

ピーク・エンドの法則とは、人は体験の中で、感情が高まった時(ピーク)と最後(エンド)の印象で全体の印象を判断するという法則です。

行列に何十分も並ぶのが好きという方は少ないと思います。遊園地や人気の飲食店では、自分の順番が来るまで長時間並ぶことも少なくありません。 しかし、ピークとエンドの記憶しか残らないのであれば、最終的には「(アトラクションが)楽しかった」「(食べ物が)おいしかった」というようなポジティブな印象になり、また足を運びたくなる人が増えるということです。

UX設計について考える時には、ピーク時と終了時に記憶に残りやすい前向きな感情を与えることで、体験の満足度を上げる効果が期待できます。

プロスペクト理論

不確実性下における意思決定モデルの1つをプロスペクト理論と言います。 損失回避性とも言われ、簡単に言うと、人は手に入れた喜びよりも失うことによる悲しみを過大評価するため、損失を回避する行動をとる、という理論です。

例えば、「先着〇名様まで」や「〇個限り」というように、期限や個数を限定することで購買意欲を刺激する方法があります。

エンダウド・プログレス効果

エンダウド・プログレス効果とは、ゴールへの前進を感じることでモチベーションが向上するという効果です。

ポイントカードを例に、以下の2つを比較してみましょう。

  • 10ポイント貯める必要があるカードをもらった
  • 12ポイント貯める必要があるカードを、最初に2ポイント貯まった状態でもらった

どちらも10ポイント貯める必要がある点は変わりませんが、後者の方がすでに2ポイント貯まっていて進捗が可視化されるため、ポイントを集めるモチベーションアップに繋がることが期待できます。

おとり効果

おとり効果とは、複数の選択肢の中に他より劣る選択肢(おとり)を混ぜることで意思決定に影響が出るという効果です。

レストランのメニュー表を見た時に3つのコースがあるとします。

  • コースA:3,000円
  • コースB:4,000円
  • コースC:5,000円

この中からコースを選ぶ場合、一番安いコースでは物足りないかもしれない、一番高いコースでは贅沢かも…という心理が働き、中間のコースBを選びやすくなることが予想されます。

現在志向バイアス

未来で得られる大きな利益より、目先の小さな利益を優先してしまう行動を現在志向バイアスと言います。
ダイエットをして理想の体系になりたいと考えていても、目先の食欲に負けてしまうというパターンも現在志向バイアスによるものです。

「今すぐ」を重大に感じるバイアスなので、例えば

  • 使ったその日から効果が見込めます
  • お申込み直後から使えるサービスです

のようにすぐに使えることをアピールすることでマーケティング効果を狙うことができます。

ナッジを取り入れたUI/UX

ではUI/UXにナッジを取り入れるとはどう言うことでしょうか。
私はナッジを取り入れることは、「その製品、サービスからより良い体験が得られるようにすること」と考えていますので、事例をいくつかご紹介します。

フリーマーケットアプリ

あるフリーマーケットサービスでは、自分の売上金額がある場合、商品を購入する際に「売上金〇〇円をお持ちです」と表示されます。
商品を購入する画面なのに自分の売上が表示されるのは一見ミスマッチに見えますが、利用者は「この商品は売上金額で買えるんだ」ととらえることができます。

地図アプリ

地図アプリでは目的地を入力するとその場所までの経路とともに、検索バーの下、レストランやコンビニなど頻繁に検索されていそうな検索ワードをボタンとして表示しています。
さらに交通手段で車を選択すると、表示されるワードはガソリンスタンドや駐車場に変化します。 目的地を検索した利用者のその後を先読みしたUIとなっています。

ARゲーム

スマホで遊べるゲームアプリでは、AR技術を使用したものもいくつか登場しています。
現実にゲーム内のキャラクターがいるように表示されるため、プレイヤーはキャラクターを探すために外に出て探索をすることになります。
ゲームを遊ぶという目的が外に出て運動をするという結果に結びついており、これもまた優れたナッジと言えます。

筆者のナッジを生かしたデザイン

最後に、私の考えたUI/UXデザインを1つご紹介します。 ナッジ理論を生かしたデザインを考える際、日々の運動をサポートするアプリにプロスペクト理論が生かせそうだなと感じました。 「あと〇〇回やろう」よりも、「あと〇〇回しかできない」としたら、その1回を前向きにがんばれそうです!

おわりに

今回は、ナッジ理論とUI/UXデザインについて、行動経済学の理論も踏まえてご紹介しました。 ナッジ理論は近年提唱されたばかりの考え方であるため、まだまだ研究の予知が残っている分野だと感じています。 皆さんも身の回りにあるシステムやサービスに触れる際、または自分がUI/UXをデザインする際にナッジ理論について思い出すと面白いかもしれません。

ナッジか、そうでないかの判断は難しいです。しかし、そこがこの分野の面白い部分ではないでしょうか。 ご紹介した通り、ナッジは有効に活用すれば物事の見え方を変える効果があります。 悪用とならないよう、使いどころを見極めて利用すれば、予想以上の結果が得られるかもしれません。

参考資料


TOP
アルファロゴ 株式会社アルファシステムズは、ITサービス事業を展開しています。このブログでは、技術的な取り組みを紹介しています。X(旧Twitter)で更新通知をしています。